弁護士インタビュー / 留学・出向経験者
下瀬隆士弁護士 (60期)
私は、もともと国内の労働法分野や訴訟業務に関心があって弁護士になりました。そのため当事務所に入所した当初は、海外業務や留学は自分とは縁遠いイメージがあり、特別に強い関心があったわけでもありませんでした。
しかし、入所以降、海外業務や英語を使った案件の取扱いが当事務所でも確実に増えていることは感じており、私自身も、英語の契約書を読んだり、アメリカや東南アジアなどの海外の会社との間の契約作成に関わったりする機会にも恵まれました。それらの契約条項について本当の意味で理解をしたいと思ったのが、留学に関心を持つ契機になりました。
また、当事務所には留学経験のある先輩が複数いたため、そのような先輩から留学の経験を聞いたり、また現にその経験を生かして業務に取り組んでいる様子も見ていくうちに、留学経験を業務に生かすことの具体的なイメージが湧き、段々と留学への思いが強くなっていきました。そのような次第で、当事務所のパートナー弁護士にその希望を伝え、留学させていただくこととなりました。
私がパートナー弁護士に留学希望を伝えたのは2012年のゴールデン・ウィーク明け頃で、英語の勉強を始めたのもその頃でした。帰国後のキャリアを考えるとできるだけ早く留学に行った方がよいと考えていたため、直近の2013年からの留学を目指し、2012年末頃までに出願書類を提出するという目標を設定しました。
留学準備の中で最も苦労したのは、日常の業務と並行しながら、TOEFLの点数を上げるために英語の勉強をすることでした。そのような留学準備のため、当事務所からは担当案件の割振りを調整してもらうなど、かなりの配慮をしてもらいました。そのことは今でも感謝しきれないくらい有難いことだったと思っています。
また、出願に際しては、personal statementという志望動機書に相当するエッセイを作成する必要があります。その作成過程で、これまでの当事務所における業務を振り返り、留学で得られる経験や知識を今後の業務にどう生かしていけるのかを真剣に考えることになります。当事務所の先輩にも親身に相談に乗ってもらいながら、イメージを膨らませて作成していきました。
私は、2013年の夏からアメリカに1年、2014年の夏からオランダに1年の計2年間留学しました。
まず、アメリカでは、ノースカロライナ州にあるデューク大学のLL.M.プログラムに参加しました。デューク大学では、契約法、会社法、反トラスト法(独禁法)、労働法などの講義をとったほか、交渉技術を学んだり、意見書を実際に作成する授業もあり、多忙ながら充実した日々を送りました。この中でも反トラスト法は、日本で留学前に独禁法に関する実務経験があったことから、もともと強い関心があり、いつも非常に楽しみな講義でした。また、契約法はJ.D.(ロースクールの3年コースで、アメリカ人の学生が大半を占めます。)の1年生の必修科目であり、教授と学生との問答によって授業が進められる、いわゆるソクラティック・メソッドが採用されていました。私も、毎回相当時間を掛けて予習したうえで、いつ指されるか分からない緊張感をもって授業に臨んでいました。そのような授業の洗礼を受けて法的思考力を格段に高めていくJ.D.の学生を見るにつけ、まさに「アメリカン・ロイヤーの誕生」を目の当たりにしているという感慨がありました。
続いて、2年目はそのままヨーロッパに飛び、オランダのライデン大学でヨーロッパ・国際ビジネス法専攻のLL.M.プログラムに参加しました。ヨーロッパを選んだのは、先ほど述べた反トラスト法(独禁法)の授業が特に興味を引いたことから、独禁法分野ではアメリカと双璧をなすヨーロッパの競争法を勉強してみたいと思ったからでした。こちらでは競争法のほか、EU法、仲裁法などを中心に勉強をしました。ライデン大学では卒業論文が必修であったため、日本で課徴金減免申請を取り扱っていた実務経験も踏まえ、EU競争法におけるリニエンシー手続をテーマに選びました。幸いにして論文は高く評価していただき、法律雑誌に掲載させていただくことができました。
アメリカでもオランダでも、勉強自体は膨大な予習を必要とするかなり大変なもので、提出課題も多く、平日は図書館にこもって勉強していることが多かったです。その反面、オフにはクラスメイトや留学仲間とパーティーを開いたり、ゴルフをしたり、家族と旅行(特にヨーロッパでは10か国以上を訪問しました。)をするなど、とても楽しく過ごすことができました。これらは、人生でも最も楽しい思い出の一つになっています。
まず、業務の範囲が非常に広がりました。国内市場の大きな拡大が見込めない中、当事務所に依頼くださる企業も、大小の区別なく海外展開を進めていたり、少なくとも検討をされています。留学をすることで、そのような依頼者のご相談に関与できる機会が多くなりましたし、それにある程度自信をもって対応できるようにもなりました。
また、外国の法律家との人脈を築けることも見逃せません。海外業務においては、現地の法令調査等のために外国の弁護士の意見をもらう機会が多いのですが、費用面や能力面を考慮して適切な外国の弁護士を選ぶことはそれほど容易ではありません。その点、留学先である海外のロースクールには、様々な国から優秀な法律家が参加し、彼らと仲良くなることができます。そのようにして知り合った友人であれば、その能力も分かっており気心も知れており、ある程度気軽に相談をすることもできます。このように外国の優秀な法律家に対して、比較的気軽に仕事を依頼できる関係を築けることも、留学の大きなメリットだろうと考えています。